《THE 有頂天ホテル》(2005年,日本)


 私は基本的に,どんなクズ映画でもきちんと最後まで見て感想を書くことにしています。見続けるのが拷問に思えるほどつまらない映画も多数ありますが,それでも我慢して見るようにしています。

 しかし,この映画は駄目でした。何とか55分くらいまでは見たけれど(ちなみに130分を超える映画です),そこが我慢の限界でした。《死霊の盆踊り》《ジュラシックジョーズ》に耐えた私の精神力も,この映画の前では力尽きました。とにかく,面白くないのです。


 とは言っても,この映画は一般には面白い映画とされています。笑いのシーンが連続するし,ストりーはしっかりしているし,芸達者な俳優が次々出てくる映画です。この映画を見た多くの人が「大笑いしました。面白かったです」と感想を述べている映画です。かなり評判になった映画です。

 しかし私は15分を過ぎるあたりから,「これって本当に面白い映画なの? 本当にみんな,面白いと思ったの?」という気分になったのです。理由は後ほど述べます。


 これは,大晦日の午後10時から新年までの2時間に,あるホテルで起こるさまざまな出来事・事件を並列的に描いた作品です。これでもか,これでもかとさまざまな事件が起こるし,人間関係もコッテリ濃ゆいです。

 スキャンダルを起こしてホテルに逃げ込んだ国会議員がいます。彼とかつて愛人関係にあった女性はなぜかこのホテルに客室係として勤めています。
 ホテルの副支配人はロビーで別れたかつての妻とばったり遭遇するし,彼女の現在の夫は「鹿の人工繁殖」で有名になり,その晩,このホテルで表彰式が行われる予定です。
 そして,この「鹿人工繁殖」研究者の現在の愛人が彼を追いかけてホテルのロビーをうろうろしています。
 そのホテルでベルボーイをしながら歌手を目指していた若者が挫折して田舎に帰ろうとしていますが,彼の幼なじみ(フライトアテンダントをしている)と偶然にロビーで遭遇します。
 さらに,アヒルがホテル中を走り回るわ,総支配人は顔を白塗りで逃げ回るわ,新年用の垂れ幕には「謹賀信念」と書かれているわ,それを午前零時まで書き直さないといけないわ,もう何でもあり,ハプニングのてんこ盛りです。これらが同時進行で進み,おまけに時間は刻々と過ぎていくのです。これで面白くならないわけがありません。

 おまけに,登場する役者さんがまた豪華絢爛なんですよ。役所広司,戸田恵子,篠原涼子,唐沢寿明,伊東四朗,生瀬勝久,松たか子,YOU,佐藤浩市,香取慎吾といずれ劣らぬ芸達者・くせ者揃いです。しかも監督はあの三谷幸喜です。これでつまらない映画になるわけがありません。


 ところが私にとっては,ぜんぜん面白くないし,見ているのが苦痛な映画になってしまったのです。

 なぜかというと,「どうだぁ,これなら面白いだろう。これなら笑うだろう。こんな面白いシーンは見たことがないだろう」という作り手のあざとさがあまりにミエミエで露骨なため,白けてしまったのです。


 例えば,パーティーの余興に登場する芸人一座がいて,その中の老腹話術師のパートナーが逃げ出して騒ぎになりますが,そのパートナーは人形でなく,上述のアヒルなのですよ。腹話術師が生きているアヒルで腹話術? そんなの見たことがありますか? 恐らく監督の三谷さんだってそんな腹話術は見たことがないはずです(・・・自信ないけど・・・)。となると,ホテルを逃げ回るアヒルって面白いよね,という発想からアヒルを無理にでも登場させるために,あの腹話術師を登場させたとしか考えられません。となると,腹話術師を登場させること自体の必然性が希薄になります。まさに「存在の耐えられない必然性の軽さ」ってやつです。

 あるいは,伊藤四郎さん演ずる総支配人が芸人さんの楽屋を訪問し,「私も一度,役者ってのをやってみたかったんですよ」とか言いながら,そこにあるドーランを(無断で)手にとって顔に塗り,顔全体を白塗りしたところで「人に見つかってはいけない」と顔を隠しながらホテルの隅を逃げ回るなんてシーンがありますが,これってどうでしょうか? こんな総支配人がいると思いますか? 絶対にいないと思うし,こんなのが総支配人をしているホテルはすぐに潰れます。三谷さんだって,こんな「白塗り総支配人」がいるホテルに泊まりたくないはずです。だから全然笑えません。笑わせるために変な顔にすればいいんだろ,という発想が安易で安っぽくないですか?

 やたらと,別れた妻や愛人とか先輩とかに偶然に出会いまくるのも安っぽくていけません。そんなに偶然にも,大晦日の夜ホテルで知人が偶然に出会うっておかしいですよ。それは出来過ぎだろ。お前は島耕作か?

 松たか子演じる客室係を「父親の愛人」と間違っちゃう人間が登場するのはありとしても,その客室係が,勘違いした相手と自分が働いているホテルのレストランで訳の分からない別れ話に延々とつき合う,ってのは,何が何でもおかしくないですか? ただでさえこのホテルはトラブル続きで,ネコの手も借りたいくらい忙しくて,それは彼女自身が一番よくわかっているはずです。それなら,松たか子はそんな変な奴の話につき合わないで,ちゃんと働けよ! もちろん,ホテル従業員にばれないように,たか子ちゃんがサングラスをかけたりはずしたりする様子はそこそこおかしいけど,元々の設定自体に無理があるってば。


 こんな事を書くと三谷さんファンからお叱りを受けそうだけど,この映画に関する限り有頂天になっているのは監督ご自身だけじゃないかという気がしてきます。少なくとも私はこんなギャグでは笑えません。

 もちろん,この映画は実は55分以降に笑いが引き締まって本当に面白くなり,感動的な結末を迎える,という可能性もありますが・・・。

(2006/11/24)

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