《クリムゾン・リバー 2 黙示録の天使たち》 (2004年,フランス)


 やはりリュック・ベッソンはリュック・ベッソンでした。これほど脚本が杜撰な映画,滅多にありません。これで低予算映画だったら許しますが,天下の脚本家ベッソン様が天下のスター,ジャン・レノ様主演で撮影した大がかりな映画なのですから救いようがありません。以前からベッソンで馬鹿だなぁ,と思っていましたが,これほど大馬鹿脚本家だとは・・・!

 ツッコミどころ満載,なんて生やさしいものではなく,ありとあらゆる部分にツッコミ可能です。というか,まともな部分がほとんどなく,いい加減で行き当たりばったりの展開が連続します。
 そして,映画の中の謎が全く解決されずに終わりを迎えます。「秘宝」って結局なんだったの? 「第五の封印」は出てきたけど,第一の封印も第二の封印も出番なしでいきなり第五かい? 「キリストの12人の使徒と同じ名前と職業を持った人間が次々と殺される」というのは許すとして,それとこの映画の本来の謎(というか本筋)とは無関係じゃん。おまけに12人の殺され方,初めの方は凝った殺され方をしていますが,次第に面倒くさくなったのか,2人まとめてとか4人まとめて一丁あがり,ってな感じで殺しちゃいます。ベッソン先生,ここらで面倒くさくなったんでしょう。もう最初の設定なんてどうでもいい感じです。さっさと12人殺しちゃえ,というあたふた感がよく伝わってきます。

 以下,ネタバレバレです。このクソ映画を見るつもりがない方だけ,続きをお読み下さい。


 前作の《クリムゾン・リバー》と共通しているのはニーマンス警視役のジャン・レノと,レダ刑事役のブノワ・マジメルだけ。あとはドイツが絡むことくらいかな? それ以外に共通点はまるでありません。恐らく,話題になった《クリムゾン・リバー》の名前を付けてジャン・レノ主演にすれば観客を騙せると思ったんでしょうね。そういうベッソンのさもしい性根がビンビンと伝わってきてナイスです。

 大体,冒頭の修道院のシーンからひどいですよ。その修道院に新しい修道士が入ってきて,13号室を自分の部屋にしたいと申し出るの。すると古株の修道士が「13は不吉な数字だから使うでないよ」と忠告するんだけど,若者は気にせずに部屋に入り,壁にキリスト像を掛けるために釘を打つんだよ。すると,釘穴から血が出てきてキリスト像が血みどろになるの。

 こういう事件になると登場するのが我らがニーマンス警視。彼はレントゲンみたいな機械を使って,その壁の中に死体が塗り込められていることを突きとめます。さすがはニーマンスです。

 さて,ここで問題です。あなたがニーマンス警視だったとして,次にどういう行動をとるでしょうか? 映画脚本家になったつもりで考えて下さい。
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  1. 「この中に死体が隠されている。壁を壊して死体を掘り起こせ。修道院関係者が怪しいから,全員,身柄を確保せよ!」

  2. 「死体はそのままにしておき,血液を採取してDNA鑑定に回せ! 壁が修理された記録はないのか? 2週間前に修理したけどその書類は残っていませんだって? そうか,それじゃしょうがないな。血液を持って署に帰ろう。修道士達に事情を聞く必要はない!」
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 普通なら 1 のはずですが,ベッソン大先生は 2 なんですよ。なんとニーマンス警部殿,死体はそのまま壁に残したまま,壁に注射針を刺して採血し,署に戻るんですよ。馬鹿ですねぇ。

 この時点で誰が見たって,犯人は修道院関係者ですよ。さっさと逮捕すれば一件落着。ですが,哀れ,死体は壁の中に取り残されたままです。誰か掘り出して埋葬してあげてください。大体,壁に注射針を刺して死体から採血するのって,絶対に無理だってば。


 でも,目の前の犯人を優しく逃すのがニーマンス警視のいいところ。この優しさがあるから映画になるんだよ。

 おまけに血液のDNA検査で,なんと死体の顔が復元され,名前と職業までわかっちゃうのだ! 恐らくベッソン大先生,DNAそのものがわかっていないというか,勘違いなさっていらっしゃるようです。そんなの,壁の死体を掘り起こせば簡単にわかっちゃうよって,誰かアドバイスしてあげてください。

 壁の死体を見逃すニーマンスですが,修道士の爪が泥で汚れていることは見逃しません。さすがは我らがニーマンス! でも修道士達は「沈黙の誓い」があるので答えられません,と答えちゃうもんだから,それ以上質問なし。ニーマンス警視,犯人に優し過ぎ!


 一方,若手刑事のレダ君は,追跡中の容疑者が付き合っている女性の部屋を訪れます。するとこの女性,無防備にも,初対面の男を部屋に入れちゃうのです。ドアフォンで確かめた方がいいと思うぞ,お父さんは。
 おまけにレダを部屋に入れたところで「誰も部屋に入れてはいけない,って彼にと言われているのよ。わかったらひどい目に遭わされるわ」なんて言い出すの。部屋に入れてから思い出してどうするんだ,お前は!

 おまけにこのセクシー姉ちゃん,いきなりレダ君に向かって「私,あんたとセックスしたくなっちゃった」とモーションをかけてきます。ベッソン映画に出てくる女性ってみんなこんなタイプですね。「女ってみんな,こんなもんでチョロイのさ」と彼が思っていること,バレバレ。ベッソン大先生,無邪気でいい奴です。

 で,いろいろあって,レダは車で男をはねるんだけど,これがキリストそっくりさん。衣装までナザレのイエスです。もしかしたら,コスプレマニアじゃないかという気がしますが,とりあえず車で轢いちゃったから病院に収容。


 一方のニーマンスは殺された男(まだ壁の中に入ったまま)の親族を訪ね,最後の審判がどうたらこうたら言う教えに没頭していたことを知り,キリストという人物がいたことを知ります。そしてキリストさんが病院にいることがわかり,その病室を尋ねたところでレダ君と数年ぶりに再会。

 おっとその前に,キリストの病室を尋ねてきた黒衣の神父さんがいて,こいつがキリストを殺そうとするんだけど,レダ君,危機一髪のところでそれに気が付き,黒衣の神父を追いかけます。ちなみに,キリストの病室は何度も映されますが,一度たりとも医者も看護師も入ってきません。医者も看護師もいない病院と思われます。

 で,逃げる神父と追うレダ君。ところがこの神父さん,超人的な運動能力を持っていて,高いところに飛び移るわ,走る列車に飛び乗るわ,もう無茶苦茶です。途中でレダが銃で撃ちます。当たっているはずですが倒れません。それどころか,もっと速く走って逃げます。その秘密は後半,明らかにされますのでご期待下さい。

 病室に戻るとニーマンス警視がC-37という「大脳皮質に作用して記憶を鮮明にする薬」とキリストに注射します。医者の許可なしに点滴に入れちゃいます。いかにも体に悪そうな紫色の薬です。するといきなり,心拍数が249に跳ね上がります。でも,心電図のモニターもしていないため,看護師も医者も来ません。こんな病院,危ないです。で,心臓バクバク状態で「第五の封印が解かれてしまった」という供述(?)を得ます。心拍249までしてこの一言でおしまい。それで納得してしまうニーマンス君,素敵!。


 ここで,マリーと言う刑事(?)が合流。何でも宗教学を勉強していたんだそうです。もちろん美人です。

 で,どっかで死体2つが発見されます。どちらも目玉がえぐられています。でも画像をよく見ると,目玉をえぐった後で薬品で焼いたような感じです。何でそんなことをしたのか,もちろん説明なし。

 この時点で,上記の宗教刑事さんが「犠牲者はキリストの12人の使徒と同じ名前と同じ職業」ということに気が付きます。となると,まだ殺されていないのは漁師さん(ペテロやマタイは本業は漁師です)ですから,何かの写真を手がかりに,漁師小屋に出向きます。するとレダ君がいきなり,「ここじゃない。なぜなら聖書を読むとペテロやマタイは魚を捕る漁師じゃなくて,エビやカニを捕っていたと書いてある。しかし,ここにある魚網は魚用であってカニ用じゃない」という素晴らしい推理をします。

 レダ君,頭いいんじゃない,と思っていると,ニーマンスが湖(?)に浸かっている漁網が気になり,上げてみるとそこに4体の死体が! せっかくのレダ君の推理,台無しです。ちょっと前のレダ君のセリフ,なんだったんでしょうか。
 するとニーマンス,一つの死体の腕時計を見て,「これは30分前に沈められたものだ」と言います。どうやら防水時計でなかった模様です。いまどき珍しい気がしますが,ま,気にしないように。


 もうここらになると,12使徒なんてどうでもよくなり,物語は唐突に第二次大戦のマジノ線とか,8世紀のロタールの財宝とか,「封印」を解く鍵とか,そっちの方に行っちゃいます。ニーマンスのいる警察署の真ん前で十字架の死体が燃えるシーンがありますが,どうやって人目に触れずに死体を持ち込み,十字架に張りつけ,火を付けたか,まるっきり不明。玄関先に死体付きの十字架を持ち込まれて火を付けるまで気が付かない警察署,ってやばくないですか?

 後は,黒衣の修道士が襲ってきて,林の中を逃げる修道士をニーマンスが車で道路を追いかけるんですが,なぜ修道士は道に平行に走って逃げるため追いつけたりしますが,ま,それはどうだっていいです。すると,地面からいきなり要塞がせり上がってきて,ニーマンスの車を爆破します。なぜかニーマンス,その要塞を調べません。ここらでベッソン大先生,収拾がつかなくなっています。自分で広げた風呂敷を畳めていません。

 謎の文字,"EJOEJO" も大笑い。Eは上下逆に書かれているのですが,実はそれは3だったんだって。Jは7なんだって。つまりそれは730730という数字で,イエスが死んだ紀元前30年4月7日から730730日後に何かが起こるという意味で,それがたまたま明日なんだってさ。お前,きちんと数えたのか? うるう年とか,ちゃんと確認したか? ま,都合よすぎる展開がベッソン映画ってもんさ!


 ニーマンス,ここで突然,「あの修道院は一度も鐘を鳴らしていない。ということは,鐘楼が秘密の入り口だ」と素晴らしい推理をします。根拠,すごく弱いけど・・・。
 で,ニーマンスとレダ君,鐘楼に忍び込み,その地下が深い穴になっていることを発見。「これほど深いとロープが足りないかも」とレダが言いますが,ニーマンスは「どこかに横穴があるはずだ」と当てずっぽうの推理をして,二人で穴を降ります。すると,ロープがあとギリギリというという所で,横穴発見。ニーマンス,事前に横穴を知っていたとしか思えません。

 ここでニーマンス,顔がない修道士と超人的体力の秘密を知ります。顔が見えなかったのは黒いスキー帽を被っていたから,そして超人的な動きをしていたのはアンフェタミンを飲んでいたから。オイオイ,それが秘密? ちなみにアンフェタミンについてニーマンスの説明を書き写しました。「戦時中に使われていて今は使われていない薬だ。体力が10倍増して,痛みを感じなくなり,どんな命令にも従順に従うようになる」そうです。ベッソン先生,基本的なところで勘違いなさっています。

 すると,二人がいる部屋のまわりから,いきなり銃弾が雨アラレと降り注ぎます。機関銃も乱射されます。対するニーマンスとレダが持っているのは拳銃だけです。でも大丈夫。敵の弾は一発も当たりません。ニーマンス達の撃った弾は百発百中だからです。ところがここで,催涙弾というか,眠らせる作用を持つ手榴弾みたいなのが投げ込まれ,二人は捕らえられます。何だよ,それを持っているんだったら銃撃する前に投げとけばよかったじゃん。


 両手をロープで縛られて吊される二人は,ドイツの何とか大臣とご対面。この大臣,戦時中にここを占領しているときに古い修道院の地下でロタール2世の秘宝の手がかりを見つけ,それを奪う機会を窺っていたんだと。で,その修道院を買って布教活動をしていた「12人の使徒」が邪魔になり,殺したんだと。映画の最初の設定,どっかに行っちゃってます。

 で,何とかの鍵を手に入れてそれを扉の鍵穴に差し入れるとそこに「何とかの秘宝の書」が鎮座ましましてるの。8世紀に作られた秘宝の扉が動くのはなぜ,誰かメンテナンスしていたの,という疑問はとりあえず忘れましょう。

 でまぁ,この手の秘宝発見サバイバル映画のお約束として,秘密の書を取り上げると実はそれがスイッチになっていて,四方八方から水が溢れてくるの。あの有名映画を完全にパクっています。

 じゃあ,その秘密の書って何だったの,という疑問を当然お持ちのことと思いますが,お忘れ下さい。ベッソン大先生,もう忘却の彼方ですから・・・。で,悪いドイツ人達はめでたく水死しちゃいますが,ニーマンスとレダは両手をつながれていたロープを辿って上に上がり,いつの間にか両手のロープがほどけていて,逃げ出せます。両手を縛られた人間が助かり,両手が自由な人間だけ水死するという超常現象が楽しめます。

 逃げる二人,追いかける奔流。でも安心。洪水より速く走れます。で,どこかの扉の中に逃げるんだ。レダが「もう駄目だ」というと,ニーマンスは「ここは砲塔だから必ず出口があるはずだ」と言います。なぜそこが砲塔だとわかったのか不明です。さすがは我らがニーマンス!

 で,なぜかさっきまでなかった水門の扉を見つけて大きなハンドルを回そうとしますが,もちろん固く錆び付いていて回せません。

 そこでニーマンスが叫びます。「アンフェタミンだ!」。で,なぜかポケットに2本入っていた先ほどのアンフェタミンを取り出して「ファイト一発」みたいに飲み干し,数秒で効果が出て怪力レダ君に変身し,ハンドルを回して逃げ出します。アンフェタミン,すごいです。ベッソン先生,もう投げやりです。8月31日午前中まで遊びまくっていて,31日の午後になって日記を書いていないことに気が付き,あわてて適当に書いてページを埋めている小学生の絵日記みたいです。


 映画全体にツッコミを入れたと思われるかもしれませんが,これでもまだ半分以下です。それほど内容の濃い(?)映画です。ある意味,必見といえましょう。

 そうそう,舞台になる修道院ですが,至る所に十字架に磔にされたイエス像が飾られて(?)います。なんだか,死体を飾っている感じに見えて陰惨・陰鬱です。こんな修道院に夜一人で行って十字架像を見たら,ションベン漏らしちゃうくらい怖いだろうな。

(2006/10/17)

 

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