《歓びを歌にのせて》 (2004年,スウェーデン)


 音楽の素晴らしさを余すところなく描いている感動作である。この映画の中心テーマとなっている曲が初めて流れたとき,涙が止まらなくなってしまった。透明で芯のあるソロの歌声に胸がいっぱいになり,歌われている歌詞の素晴らしさに涙がこみ上げてきた。140分近い長編だが,エンディングが近づくにつれ,ここで終わらないでくれ,もっと続いてくれ,もっともっとこの世界に浸らせてくれと祈るばかりだった。映画の結末なんてどうでもいいから,ずっと映画が続いて欲しかった。彼らの歌声をずっと聞いていたかった。

 音楽に興味がある人でこの映画をまだ見いない人は必見です。本当に素晴らしい作品ですから・・・。


 主人公は天才ヴァイオリニストにして指揮者としても世界的に名声を勝ち得たダニエル。彼は14歳の時にコンクールで優勝して以来,休みなく世界中を飛び回る生活をしていた。だが,その無茶苦茶な生活が彼の体を蝕み,オケの練習中に倒れてしまう。心臓発作だった。もう彼の心臓はボロボロだった。そこで彼は音楽から身を引き,生まれ故郷であるスウェーデンの小さな村に戻り,廃校となった小学校を買い取り,そこで隠遁生活を始める予定だった。

 最初,彼は音楽とは完全に縁を切った生活をするつもりだったが,村の牧師から聖歌隊を見て欲しいと乞われる。プロの歌声ばかり聞いていた彼から見れば下手な素人集団である。引き受ける気はなかったが,彼らの歌声を聞いて彼は聖歌隊の指導を引き受けることにする。

 「自分の声をよく聞き,相手の声をよく聞くこと。それがハーモニーだ。音楽は既に存在している。あとはそれを見つけだすだけだ」と彼は教え,呼吸法を教え,発声の仕方を教え,自分の声を生かしつつ皆の声と調和させる方法を引き出していく。単にきれいに歌うのではなく,互いを信頼し,自分を信じ,心を偽らずに歌うという彼の指導は,やがて聖歌隊のメンバーの心を解き放していき,次第に彼らの中で何かが変わっていく。聖歌隊のメンバー達は小さな村で生きていくために,自分の心を少しずつ押し殺しながら生きてきたが,その心の壁がしだいに崩れていくのだ。


 この映画の主題とも言うべき歌をソロで歌う女性は,実は深刻な家庭内暴力で悩んでいた。村の診療所に来た医師を愛した若い女性は医者が妻子持ちであることを知り,深く傷ついていた。牧師の妻は「牧師とはかくあらねばならない」という建前で生きている夫にうんざりしていた。小学校以来の親友というふれこみで聖歌隊に入っている中年オヤジ二人のうちの一人は,35年間「デブ,のろま」と呼ばれ続け,それを恨みに思っていた。

 そして歌の練習中,ついにそういった積年の恨みと不満が爆発する。胸の内に積もり積もっていたものを全て吐き出し,ぶつけ合う。一触即発のその場面で『アメージング・グレース』が静かに歌われる。その密やかで美しいメロディーが心にしみる。そのぶつかり合いの中からお互いの本当の信頼が生まれ,それがコーラスを確かなものとしていく。地に足が着いた響きが生まれる。それが聞くものに感動を与え,聖歌隊への参加希望者が増えてくる。


 だが,牧師にはそれが我慢できない。それまで自分は牧師として皆に尊敬されてきたのに,今では礼拝に来る人より聖歌隊のコーラスを聴きに集まる人が多いのだ。皆,ダニエルを尊敬しているが,尊敬されるべきは彼ではなく牧師である自分のはずだ。彼はダニエルを憎み,聖歌隊指揮者を解任し,権限を取り上げる。

 しかし,教会を追われたダニエルのもとに聖歌隊のメンバーが集結する。歌うのは私の権利だ,歌は私の人生だ。それを邪魔し,否定する権利は誰にもない,と彼らは心を一つにする。

 やがて聖歌隊は,オーストリアで開かれる聖歌隊コンクールに招待される。様々な障害を乗り越え,コンクールの舞台に立つが,指揮者のダニエルの姿がない。彼は心臓発作を起こして会場となるホールのトイレで倒れていた。ざわつく会場。不安にいても立ってもいられないメンバー。そしてついに,知的障害を持つメンバーの青年が緊張にたまらず低くうなり声を上げてしまう。会場は異様な雰囲気に包まれる。







 その時,不安のうなり声を優しく包むように,聖歌隊の中から歌声が生まれる。やがてそれは力強いハーモニーとなり,会場全体に拡がっていく。そしてそれは倒れているダニエルの耳元にも通風口を通して聞こえてくる。ダニエルは至福の音楽,至福の歓びに包まれる。


 歌っている聖歌隊の一人一人の表情が本当に素晴らしい。よぼよぼのおばあちゃんも,男遊びしか頭になかったお姉ちゃんも,夫の暴力にいつもおびえていた女性も,歌っている時は輝いているのである。彼らの歌声に満ちる「生きる歓び」に感動するのである。

 そうそう,コーラス対の練習の合間に,60代くらいの爺ちゃんが一人の婆ちゃんに向かって,「皆の前で言いたいんだが,わしゃ,小学校で同級生だった頃からフローレンス,君が好きだったんだ」って告白するシーンがあるけど,それがすごくいいのである。「君が好きだ」と告白する時の緊張感は,10代でも60代でも同じだと思う。告白する爺ちゃんとそれを聞く婆ちゃんの表情がまるで小学生か中学生みたいで,すごくよかった。爺ちゃん,聖歌隊に入ってよかったな,ダニエルが指導してくれてよかったな。


 この映画全体を貫く歌の歌詞は次のような内容だった。

私の人生は 今こそ私のもの
この世に生きるのは つかの間だけど 希望にすがって ここまで歩んできた
私に欠けてたもの そして得たもの それが私の選んだ 生きる道
言葉を超えたものを 信じつづけて
天国は見つからなかったけど ほんの少しだけ それを垣間見た
生きている歓びを 心から感じたい
私に残された これからの日々 自分の思うままに 生きていこう
生きている歓びを 心から感じたい
私は それに値すると 誇れる人間だから 自分を 見失ったことはない
今までそれは 胸の奥で眠っていた
チャンスに恵まれない 人生だったけど 生きたいという意志が 私を支えてくれた
今の私が望むのは 日々の幸せ
本当の自分に 立ち戻って 何にも負けず強く そして自由に
夜の暗闇から 光が生まれるように ここまで たどり着いた私
そう 私の人生は 私のもの!
探し求めていた まぼろしの天国はここにある
私はこう感じたい ”私は自分の人生を生きた!”と

(2006/10/12)

 

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