《合衆国壊滅 -M10.5-》 (2004年,アメリカ)


 《ルパン三世》の石川五右ェ門がこの映画を見たらきっとこういうはずです。「また,無駄なものを見てしまった」


 一言でいえば,アメリカ西海岸が連続大地震で壊滅するけど,家族愛と団結心さえあれば大丈夫さ,という脳天気映画です。大災害に家族愛とか崩壊した家族の再生に絡ませるのはこの手のアメリカ映画の常套句だけど,それがあまりにあざとすぎてアホらしいです。感動押し売りの姿勢がうざったいし,ご都合主義のストーリー展開が安っぽいです。作り手側の「どうだ,凄いだろう。この迫力に圧倒されるだろう。家族愛に感動しただろう」というしたり顔が見えまくりで,すごく白けます。これなら,アホ馬鹿ホラー映画の方が数段ましです。

 この映画はどうやら,テレビ向けに作成された映画らしいんだけど,コマーシャルが入る部分でフェイド・アウトして場面転換するんですよ。これが一度気になり出すとこれがとても邪魔です。それと会話のシーンで話をしている人物がいきなりクローズアップされるのもうざいです。まるで,素人が撮ったビデオみたいです。おまけに,地震のシーンになるとやたらとカメラが揺れます。それで地震の揺れを表しているつもりなんだろうけど,画面をよく見ると重い物が吹っ飛んでいるのに軽い物が全然動いていなかったりして,笑っちゃいます。お前ら,仕事,甘いぞ! それじゃ,カメラを動かしても意味ないって!


 冒頭,シアトルの町中を颯爽と自転車で走るお兄ちゃんの場面から始まります。そこでいきなり地震が起きて地面に亀裂が入ります。なぜか,お兄ちゃんを追うように地割れが進みます。お兄ちゃんは曲芸的テクで地割れを振り切ります。そして一旦,タワーみたいな所にたどり着いて一息入れるんだけど,そのタワーに亀裂が入り,倒れてきます。するとお兄ちゃんはなぜか,倒れてくる方向に逃げます。なぜ,逆に逃げないんだ,と文句を言いたくなりますがそこは大丈夫。タワーがお兄ちゃんを襲うように倒れますが,辛くも逃げ切ります。お約束ってやつです。そこで地震が収まりますが,亀裂が入っていない部分の町は何事もなかったようです。お兄ちゃん,颯爽と自転車で退場。そんなのありえねぇ,と大笑いしてはいけません。お約束ですから。

 そして今度は,その南側でさらに大きな地震。今度は特急列車が獲物です。今度の地割れはなぜか,正確に線路のみを破壊して進みます。逃げる電車と,それを追う地割れ。地割れが追ってくるのになぜか脱線もせずに猛スピードで走ります。しかし,ついに列車が地割れに飲み込まれます。安物のプラモの電車だってすぐにばれちゃいますが,見ないフリをしてあげましょう。すると電車を飲み込んで満足したのか,地割れはそこでストップ。地震も収まります。お前ら,モンスターパニック映画の《トレマーズ》をパクっただろ!


 次いで,離婚した夫婦とその娘が登場。どうやら,「1年に1度くらいは娘をキャンプに連れていく」という約束があったようです。お約束として,この父と娘の関係はうまくいっていない模様です。でも大丈夫,パニックの中で親子関係は修復されるのがアメリカ映画ってものです。

 キャンプ場を目指すんだけど,鳥が変な飛び方をしているし,変な土煙が上がっているため,引き返そうとします。そこで道路が陥没しています。なぜかこの父,その陥没を車で突っ切ろうとします。引き返す勇気を持っていません。当然のように車が亀裂に飲み込まれます。お約束です。砂に飲み込まれる車,娘をまず車のドアから逃がします。娘が逃れたのを見計らったように車が土に飲み込まれます。「パパ,どこに行っちゃったの。私を一人にしないで!」と悲痛な叫び。すると土の中から「パパは大丈夫だ!」と声があり,オヤジ,這い出してきます。それを助ける娘。一見,感動シーンなんですが,よく見ると,車一台分だけ流砂になっていて,その周囲の地面は全く異常なし。どうやらこの車,ピンポイントでそこに入り込んだ模様です。宝くじに当たるような確率です。でそのあとこの親子の脱出行シーンがぶつ切れで描かれます。なぜか緊迫感はありませんが,気にしない方がいいと思います。


 で,映画のヒロインとなる地震学者のヒル博士がこの地震は非常に深い深度にある未発見の断層が原因で,次々と連鎖的に浅い断層が動き,次はもっと南で起こるはずといいますが,他の地震学者からは一笑に付されます。ま,これもお約束ってやつです。

 そしてサンフランシスコで大地震。金門橋が真っ二つになり,走っている車が次々海に落下しますが,トミカのミニカーみたいに見えますが,気が付かないフリをしてあげましょう。

 そしてヒル博士が自説を証明するガス噴出を見つけ,次はあのサンアンドレアス活断層が動く番だと予想。その考えを対策本部長が支持。そして,活断層がこれ以上動かなくなるためには何か方法はないかと質問します。すると彼女が答えます。

 「駄目かもしれないけど,構造プレート下層を高温で溶かせばくっついて動かなくなる可能性があるわ」というのがその答え。「巨大な熱だって?」,「核爆発くらいのね」,「それしかないな」なんていう安易な会話の末,核弾頭を地下で爆発してプレートを接着することをすぐに決定。そりゃあ,何が何でも無理があるんじゃない,というツッコミを入れたい気分は判りますが,そういうツッコミは御法度です。これぞ,アメリカが理想とする「核爆弾の平和利用」ってやつなんですから・・・。そういえば,地球の中心にある核の運動が停止するパニック映画《ザ・コア》でも,核爆弾を使って核を動かしてましたね。核兵器を爆発させたくて仕方ないんでしょう・・・この国は。核兵器馬鹿,って呼んでさし上げましょう。

 で,そのためには6個の核弾頭を正確に設置する必要があり,第一地点では深さ98.8メートルという数字がヒル博士から告げられます。なんとセンチ単位での指定です。フィートでいうと324フィートかな? いずれにしても,緻密な計算で爆発させているのよ,アメリカはいつも緻密な計算の元に行動しているのよ,ということを言いたいがためにセンチ単位の数字を出した模様です。


 一方,森を彷徨っている父と娘ですが,「パパ,ママと別れたあと,好きな人はいるの?」なんて質問します。オヤジは「そんなことはなかったよ。まだ,ママが好きなんだよ」とか答えます。アメリカ映画お約束のケツの穴がこそばゆくなるような会話ですが,我慢しましょう。

 で,核弾頭を地中に埋める作業も順調に進んでいて,最後の6発目をまたも98.8メートルに設置中ですが,そこでお約束の大地震発生。核弾頭が穴に落ちて50メートル付近でひっかかっちゃう。もちろん,爆破ケーブルが切れるのはお約束。ヒル博士によると,6発連続して爆破しないと効果がないんだそうですが,これでは駄目です。しかし核爆弾本体には手動の起動スイッチがあり,そこに暗号を打ち込むと爆破できるんですね。

 そこで,対策本部長が「俺がスイッチを押す」と言い出すわけさ。そして一人で穴の中に入り,最後の暗号を打ち込もうとしていると,お約束の追加地震。ここで地震が起きると美味しいよね,というところで地震が必ず起こるのがこの映画です。そして対策本部長は穴の奥に落ちて途中で引っかかっちゃう(まっすぐ穴を掘っていたはずなのに,なぜ途中で引っかかってしまうのだよ)。そして彼に上に核爆弾が直撃。数百キロありそうな爆弾の直撃で死ぬかと思うんだけど,さすがは本部長。生きています・・・が,体が爆弾に挟まれてしまい,手を伸ばそうとしても最後の暗号数字が押せません。

 そこで対策本部から彼の無線に電話が入ります。「まだ諦めるな,打つ手はあるはずだ」と無責任な激励をします。さすがにそれは無理だと誰しも思いますが,そこはアメリカ人ですから,ここから何とかしてくれるはずです・・・お約束ですから・・・。そして,ここでなぜか彼の息子(救急医で災害現場で活躍中)が電話に出て,死別した妻の思い出とか,今までお前を構ってやる暇がなくてごめんとか,そんなことはないよパパとか,愛しているよ,とかケツの穴がこそばゆくなるような会話が延々と続きますが,我慢,我慢。

 そしてとどめの地震が起きたところで,本部長,体が動かせるようになって最後のボタンを押します。そして6個の核爆弾が順に破裂して,地震が収まります。


 さてこの時点で,発生した地震のマグニチュードは最初が7.9, 次が8.2ときて,最後のが9.8だったかな。ところが映画のタイトルはM10.5だったことに気がつきます。ということは,最後にもう一度,10.5が起こることがここでばれちゃいます。


 というのはさておき,よかった,よかったと思っていると,最後の6発目の爆破深度が浅かったため,南カルフォルニア直下の活断層が動き出してしまいます。そして発生するのはもちろんマグニチュード10.5の大地震! 最後の力をふりしぼってボタンを押し,核爆弾の爆発で死んじゃった本部長の努力,無駄でした。

 そして南カルフォルニアに地割れができて,そこに海水が入り込み,地割れはどんどん北東に伸びていきます。そして避難所(なぜか,主要登場人物が全員集合している)を地割れと海水が飲み込もうとし,走って逃げるヒロインが倒れます。あわや,というその瞬間を見計らったように地震が止まります。彼女の脚まであと10センチという絶好のタイミングです。

 すると,さっきまでの地震や大波(というより,最大級の津波ですね)が瞬時に治まり,海水は地中海を思わせる美しいエメラルドブルーになります。それを見て,本部長の息子の医者が助けた6歳くらいの女の子が,「きれいね」と言ったところでおしまい。わーい,最後までお約束シーンだぞ。


 こんな映画を見て感動するやつの気が知れないのでありました。

(2006/09/20)

 

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