《テキサス・チェーンソー》 (2003年,アメリカ)


 ホラー映画なんだから怖いのは当たり前,身の毛がよだつのも当たり前・・・なんて思ってこの映画を見たら,その怖さにぶっ飛びました。とにかく救いようのない怖さ,恐ろしさです。

 この作品はホラー映画史上,最も怖い映画といわれている《悪魔のいけにえ》(1974年,アメリカ)のリメイク版との事ですが,この《いけにえ》は実際にアメリカのテキサスであった猟奇殺人事件に取材した映画です。私は幸い(?),《いけにえ》を見ていませんが,この《チェーンソー》は少なくとも私がこれまでに見た映画の中で最恐でした。途中で何度見るのをやめようと思ったか知れません。
 映画の画面に,「頼むから,残りの登場人物をさっさと殺して,映画を終わりにしてください。一分で早く終わらせて,なぜこういう事件が起こってしまったのか,家族はなぜ彼の犯行・凶行を知っていて放置していたのかを教えてください」とお願いする始末です。


 どこが怖いか。もちろん,実際に起きた事件だということはあります。チェーンソーで生きながら切り刻まれた人間が本当にいたということです。その痛さ,恐ろしさが画面全体から迫ってくるのです。この「痛さ」はもう,生理的なものです。

 そして,この手のホラー映画にある「遊び」の要素がまるでありません。「遊び呆けているバカ若者達が見知らぬ建物に入り込み,一人,また一人と惨殺されていく」という映画はそこらにたくさんありますが,その多くは無駄色気をふりまくソフト・ポルノ映画だったり,血みどろの画面でありながら「そんなのありえねぇ~」と笑えたりするものですし,また,登場人物には性格が悪いのがいて,こいつはさっさと殺されちゃっていいな,というキャラがいたりするものです。だから見ている方は,安心できるんですね,どんな残虐シーンがあっても・・・。
 ホラー映画というのは通常は,ギャグやユーモアと裏表なんですよ。いわゆる「約束事」ってやつです。


 ところが,この映画はそういうお約束を全部否定しちゃった。冒頭の,実際に起きた事件を伝える古いテレビニュースの画像が流れるあたりからすでにもう,ただならぬというか,危ない雰囲気が漂ってくるのです。これは作り話じゃないんだぞ,本当にあった事件を再現しているんですよ,普通のホラー映画だと思ってみたらひどい目にあいますよ,と警告しているかかのようです。

 また,殺される若者達も決して悪くないんですよ。この手の映画によく出てくる「頭空っぽ,セックスとマリファナのことしか知らないよ」タイプではありません。もちろん,メキシコからマリファナを密輸をしますが,その理由だって,3年付き合っている彼女(この映画の主人公)との結婚資金を得ようとしたからなんですね。他の3人も基本的にはいい奴です。困っている人を見ては黙っていられなくて助けたりします。それが,彼らがこの恐ろしい事件に巻き込まれる発端なのです。

 そんないいやつらが次々と殺されたり,生きながら切り刻まれ,最後に主人公が残ります。チェーンソーを持って襲い掛かる殺人鬼から逃げまわり,最後になけなしの武器を手に取って食肉工場のロッカーに隠れます。凄まじすぎる迫力です。あのチェーンソーにちょっとでも触れたら腕が吹っ飛ぶのがわかります。
 せめてこの主人公だけは助けて欲しい,助かって欲しい,と本気で祈りながら,映画を見るのでありました。


 結末がわかった後でも,もう一度,見直す気はありません。金を貰っても見たくない映画です。あの怖さはもういいです。


 この映画レビューに対し,一部,事実誤認があります,と次のような御指摘をいただきました。御許可を得て,全文掲載させていただきます。御指摘,ありがとうございました。

 多分、すでに他の方から同様の内容のメールが既に届いているやもしれませんが、本作およびオリジナルの『悪魔のいけにえ』は完全なフィクションであり、実際にチェーンソーでの殺人事件をドキュメンタリーにしたものではありません。

 監督にインスピレーションを与えた事件(お暇があれば”エド・ゲイン”で検索されてみてください)はありますが、その事件でもチェーンソーが使われたという話は見たことがありません。
 2003年作の本作はオリジナルより少々アクション方面にふられていますが、オリジナルはホラー映画のお約束どおり「ギャグやユーモアと裏表」であり、それまでの、怪物はゆっくりと動くというお約束を打破したレザーフェイスのハイスピードで一瞬で相手を屠る当時としては革命的アクションと、それでいて、自分のやってしまった行為に頭を抱えたり、チェーンソーで自分の足を切ってしまう間抜けなコミカルさなどが身上の笑うに笑えない系のホラー作品です。

 『地獄の変異』のレビューをGoogleでサーチし、そのつながりで医療サイトページも拝見しました。映画レビューだけのサイトであれば余計なお世話ともいえますような、このような失礼ともいえるメールを差し出すつもりはないのですが、医療方面の革命的な実践と本ページの事実誤認?の落差が気になり失礼を省みず差し出す次第です。

(2006/07/18)

 

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