コウモリが大群で襲ってくるパニック映画です。基本的には丁寧に作られていて，コウモリが襲ってくるCGはかなりの迫力だし，コウモリの大群に襲われて街がパニックになる様子はきちんと撮影されているし，陰謀はあるし，軍は動くしと，この手の映画のあらゆる要素をきちんと踏んでいます。細かいところにこだわらなければ，面白い映画の部類に入れてもいいでしょうし，時間の無駄という気はしませんでした。

　パニック映画で最初に登場するカップルは数分後に殺される，という定石そのまま踏んでいるし，主人公の女性科学者とそれを助ける保安官は最後まで生き残るし，科学者を助ける黒人の助手はおしゃべりだけどいい奴だし，騒動の真犯人の科学者は最後の場面できちんと死んでくれます。まさに，パニック映画の王道ってところでしょう。余計なラブシーンがない点も好感度アップです。

　問題は，ストーリーの細かいところにアラがあって，そういうところが気になり出すと突っ込めるところばかりという点でしょう。最後の詰めが甘かった感じですね。

　映画の内容は単純で，テキサスだったかネバダだったかでカップルの惨殺死体が見つかり，その遺体からコウモリの仕業じゃないかということになり，コウモリ研究者（ヒロイン）が呼び寄せられ，CDC職員も参入します。そしてヒロインは死体からオオコウモリの歯が見つけちゃう。でも，このコウモリは果実食だし人を襲うわけがないというんだけど，もう一人の研究者（男）がいて，実は自分のラボから逃げ出したんだと告白。どうも軍とかそこらが絡んでいるらしい。そして，コウモリの知性を高めて攻撃性を高め，雑食性に変え，おまけにそういう性質をお互いに伝達するためのウイルスまで持っているんですね。ここでヒロインがいいます。「あなたは，絶滅危惧種のコウモリを使って研究しているの？」。と，ここまでが導入部分。

　そこでエサを求めたコウモリの大群が街を襲ってきたため大パニックになります。この部分のコウモリの大群はかなりの迫力です。

　そして，市長が避難命令を出し，無人となった街を軍が爆撃することを決定。しかし，それではコウモリの群を分散させるだけだとヒロインが考え，2日だけ攻撃を待ってもらうことになります。ここでヒロインはコウモリが寒さに弱いことを利用して，ねぐら全体を冷却しちゃいましょう，という計画を立て，軍事衛星の映像を提供してもらって廃墟となっている廃坑がねぐらであることを発見。そこで軍から「エジプトのカイロだって3日で凍らせることができる」という機械を提供してもらい，軍はそれを設置するんだけど，夜に軍を動員してねぐらの廃坑に機械を運び入れたため（？），部隊は全滅しちゃう。

　翌日，この廃坑にたどり着いたヒロインたち3人は軍と連絡を取り，あと60分で爆撃作戦だということを知り，ヒロインと保安官が防護服（何しろ廃坑の中はコウモリの糞で一杯だからアンモニア濃度が致死量になっている）を着込み，廃坑の中に入り込むんですね。そして，コウモリのねぐらを見つけ，冷却装置のスイッチを何とか入れ，追ってくるコウモリから逃げ，辛くも二人が入り口から出たところで黒人の助手が爆破スイッチを入れ，廃坑からコウモリが出てくる寸前で爆破。そして，爆撃開始寸前のところで軍に連絡が取れ，めでたし，めでたし。

　ま，要するに，どっかで見たことがあるようなストーリーですが気にしないようにしましょう。

　でも，少しは突っ込むか。

　まず，このコウモリを開発した研究者（悪役）はラボから偶然逃げたのでなく，わざと逃がしたことが明らかになりますが，なぜ逃がしたのか意味不明。オオコウモリを動物兵器として開発したのはありとしても，その効果を確かめるために町中に放すのは明らかに変。すぐにニュースになっちゃいます。

　それと，感染症でもなんでもないのに，最初からCDCが絡んでくるのもちょっと変。何しろ見つかったのは「異常惨殺死体」ですから，普通ならまず警察とかだよね。

　そして，コウモリの大群が全てオオコウモリというのも変。だってついさっき，「これは絶滅危惧種よ」って説明したばかりじゃん。逃げ出したのは2匹だけ，って説明したばかりじゃん。でも，廃坑の中に入り込んだヒロインは，ここには数百万頭のコウモリがいるわ，と説明するんですよ。それじゃ，絶滅危惧種じゃないよ。むしろ多すぎて困るくらいじゃないですか？　それとも，このウイルスに感染すると，キクガシラコウモリがオオコウモリに変身しちゃうの？

　コウモリが摂氏4℃で活動を停止し0℃で死ぬ，としても，そのねぐらの廃坑全体を0℃にしちゃう機械があっさり見つかるというのも，ご都合主義というか，話を急ぎ過ぎ。しかも見つかった機械も，カイロ全体を冷凍しちゃというんだからなぁ・・・。どうもここらで，映画監督はストーリーを考えるのが面倒になった模様です。

　おまけにその冷凍機，軍が事前に設置してくれてあるんだけど（何しろサイズが3メートルくらいはありそうなんで，ヒロイン達3人では運び入れることは不可能だから，ストーリーの展開からするとこうしないと話が進まない），そのでかい機械がなんと天井から（？）吊されているの。クレーンで吊ったにしても，すごく面倒なことしてませんか？

　また，冷凍機のスイッチを入れて逃げ出す二人をコウモリの大群が追いかけてきます。普通なら，重そうな防護服を着て，コウモリの糞が川みたいになっている中を走って逃げる人間と，翼で自由自在に飛べるコウモリでは，どう考えてもコウモリの方が速いはずなのに，なぜかコウモリ君たち，走る人間に追いつけません。古代ギリシャのゼノンの謎かけを思い出します。

　というわけで，暇つぶしくらいの役には立つでしょう。

(2006/07/12)

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