《ショーン・オブ・ザ・デッド》(2004年)


 抱腹絶倒のゾンビ映画の大傑作! ホラー・コメディーなんだけど,とにかく笑いのセンスが秀逸で,音楽のセンスも抜群で,スプラッターシーンはド派手だし,おまけに感動シーンでは泣かせてくれるし,ゾンビ映画というのを離れても,普通の意味で素晴らしい映画です。

 ゾンビ映画といえば,誰でも知っているのが1970年代にロメロ監督の「ゾンビ」シリーズ。。その後のありとあらゆるゾンビ映画の決めごと(ゾンビの歩き方とか増え方とか)を作った傑作でした。その後,多くの亜流ゾンビ映画を生み出し,その大半は駄作でしたが,21世紀になってロメロ・ゾンビのリメイクとして作られたのが「ドーン・オブ・ザ・デッド Dawn of the Dead」です。ゾンビが走って追ってくるという意表を突く掟破りの設定をもとに,スピーディーな展開とスタイリッシュな画像で見る人を魅了する傑作でした。逃走用のトラックを取り囲むゾンビの大群が,砂糖に群がるアリ,肉に群がるピラニアみたいで迫力でした。


 そして今回の「ショーン・オブ・ザ・デッド」。笑いのセンスが抜群です。ロンドンを舞台にしているんですが,イギリス人気質とか習慣とかを思いっきり笑い飛ばしています。ゾンビがいても,ゾンビになっても,イギリス人はイギリス人で,それが上質の笑いを生み出しています。

 例えば,ゾンビに追われて車に逃げ込むという生きるか死ぬかの状況なのに,初対面同士の相手は主人公が「ママ,こちらがつき合っているリズ,リズ,こちらが私の母親です」とかいう風にきちんと紹介してから会話が始まるし,外にはゾンビがウヨウヨいるというのに,とりあえず紅茶を入れて砂糖の数を尋ねるし,という具合です。

 避難所に向かう際にゾンビの群に紛れ込んで歩こうと考え,女優の卵が「ゾンビの歩き方」の演技指導をするシーンもおもしろいかったし,ゾンビに投げつける物はないかと見つけたのがLPレコードなんだけど,「このレコードはレア盤だから駄目,バットマンのサウンドトラック盤? それは投げちゃえ」なんてシーンとか,思い出しただけでも笑っちゃいます。

 しかも,使われている音楽はクイーンだったかな? 音楽の使い方が抜群にうまいです。

 ゾンビは頭を破壊すれば倒せることがわかるんで,手に取った武器はなんとクリケットのラケット(と言うのかな?)。イギリス人ならやはりクリケットだよね。


 おまけにこの手の映画としては珍しく,人間がよく描かれています。人物の描写も人間同士の関係が十分に描かれているため,見ている方も感情移入してしまいます。ああ,こいつだけは助かった欲しいな,とか,こいつは嫌な奴だな,速く食われちゃえ・・・とかね。こう言うのがないと,ホラー映画って面白くないんだよね。

 ストーリーも破綻がなく,それでいて,こじんまりとまとまらずに馬鹿なところは思う存分馬鹿をやっているわけで,もう,手放しで褒めちゃいます。

 しかも,ゾンビ映画はゾンビが世界(?)を埋め尽くし,文明が破壊されるところで凄惨な終末を迎えるものがほとんどですが,この映画は違います。この映画の結末はよかったです。

 それと,主人公のショーンが決断力がなくて,ウダウダ・イジイジしているだけの駄目青年で,付き合っている恋人にも愛想をつかされているんだけど,ゾンビたちから仲間たちを救い,立ち向かっているうちにどんどん格好良くなっていくのもいいです。一種の成長物語になっています。こういうところも,凡百のホラー映画と一線を画しています。ショーンのルームメイトの怠け者のデブ兄ちゃんも,何をやっても駄目男なんだけど,最後の最後,決めるところはきちっと決めてくれます。


 で最期に,この映画から離れて,ゾンビについてちょっと考察。

 大体の映画では,ゾンビに噛みつかれるとゾンビになる,という設定になっています。つまり,ウイルス性疾患のような感染症,伝染病と思われます。また,一旦死んだからといってもそれなりに動いているわけですからエネルギーは必要になります。それで「人間を食う」のでしょう。つまりゾンビの主食は人間です。

 また,人間の方に向かってくるとか,音がした方に向かってくるシーンがあるので,ある程度の視覚や聴覚があり,その情報を脳で分析し,それに応じて手足を動かして移動していると思われます。とすれば,ウイルス(?)は脳に住み着いていると考えるのが自然ですから,映画の中で「首を切り落とすか頭を破壊するとゾンビを倒せる」という設定は納得できます。

 ゾンビは恐らくウイルス性伝染性疾患でしょうが,伝染力は極めて強く(咬まれると100%発症する),しかもゾンビになった後に人間に戻れた症例は報告されていませんから,不治の病,不可逆性疾患と思われます。


 ここで,ゾンビウイルスの問題点が浮き彫りになります。ゾンビウイルスは人間に感染して生きている人間を一旦殺してゾンビに変化させますが,ゾンビになると活動するための栄養源として生きている人間を食わなければいけないのです。つまり,食料と宿主が同じです。従って,ゾンビが増えれば増えるほど食料が減ることになり,人間を食い尽くすか,みんながゾンビに変化した時点でゾンビ化はストップし,やがてゾンビウイルスも死滅します。これは一般的なウイルスの生存戦略としては極めて異様です。宿主を絶滅してしまっては自分自身も絶滅するからです。
 要するに,宿主との共生関係がまだ完成していません。恐らく,過渡的な段階にあるものと思われます。

 このことから,将来的にはゾンビウイルスは次第に「感染しても発症しない」ような弱毒化の道をたどるか,あるいは,ゾンビ化した人間の食料として人間以外の生物を選ぶ方向に進化すると予想されます。


 また,ゾンビウイルスは非流行期には,何かの動物の細胞に寄生していて(この動物には病原性を持たない),その動物が人間と接触することで爆発的に伝染する,という感染パターンを取っていると予想されます。

(2006/05/29)

 

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