《人間蟲》(2004年,カナダ)


 ダメ映画,クズ映画の宝庫といえばアルバトロスです。見終わって「こんなにひどいB級映画って久し振りだな」と思ったら,たいていアルバトロス配給です。常識的に言えばクズ映画の山ですが,B級映画を探す人にとっては宝の山,それがアルバトロスです。というわけで,普通の映画ファンは「アルバトロス配給」と書いてあったら近寄らないほうがいいです。

 どういう映画かというとですね,人体に寄生している乗っ取る寄生虫を殺すハンターの物語です。で,突っ込みどころ満載というか,突っ込めないところがないというくらい凄まじい映画です。低予算で手を抜くとこういう香ばしい映画になるという,見本みたいな映画です。


 まず,日本で販売されているDVDジャケットが嘘っぱち。http://www.albatros-film.com/title.phtml?route=shopping&titleid=212で拝めますが,こんな「蟲」は登場しません。しかも,登場するのはワンシーンのみで,釣りの餌のイソメかゴカイがでかくなったやつが出てくるだけです。といっても,サイズは直径8センチくらいで大したことはありません。あまりにも情けないから画面に登場させなかったものと思われます。


 スキンヘッドのハンターはデブのくせに強いです。アル中でジャンキーですが,ムチャクチャ強いです。あまりにも強いため,こいつは何かの薬剤で強くなったのか,未来からやってきたのか,格闘技のプロかと思って見ていましたが,何のことはない普通の人間のようです。なぜこんなに強くなったのか,最後まで説明されません。

 最後に,彼が助けた男(普通のホテルマン)にハンター役を引き継いで死んじゃいますが,このホテルマン君がハンターになれるとは思われません。基礎的体力も技術も知識もありませんから・・・。それなのに,「君が今日からハンターだ」ってのは何だ? 彼にハンター役が務まるんなら,誰だってハンターになれます。「ハンターは世界中で12人しかいない」というのは,何が何でもおかしいです。

 「蟲」に寄生された人間を倒す手段は単純明快。首を切り落とすことです。だからハンターはグルカナイフを振りかざしては,スポン,スポンと首を切り落とします。首がごろごろと転げ,血が噴水みたいに吹き出します。この映画の見せ場なんですが,落ちた首はまるっきりマネキンそのもので安っぽすぎて怖くないです。貧乏映画の悲哀を感じさせる首です。

 この「切り落とされる頭」の造作もひどいけど,特殊メークも21世紀の映画とは思えないくらい手抜きでしたね。


 大体,この「蟲」が何なのか,どこから来たのか,一体何者なのかは最後まで不明。どうやって人に寄生するのかも不明。エイリアンだろうと放射能を浴びたイソメだろうと,正体なんてどうせいい加減でいいんだから,せめて何者かくらいは説明するのが礼儀ってものでしょう。


 そしてこのアル中のハンターは,首をちょんぎるお仕事の合間に同じ酒場に何度も足を運びます。行く必要がなくても何度も行き,店の常連の酔っぱらいオヤジと哲学論争をします。これがなぜか延々と続きます。あまりにしつこいため,見ている方はだんだん腹が立ってきます。だってストーリー展開と全く無関係ですから。

 しかし,ここで腹を立ててはいけません。低予算のため,舞台となる街のセットを作ったらもう酒場を作るくらいしか金が残っていなかったのです(・・・多分)。だから場面転換をする余裕がなく,やたらと意味のない哲学論争を酒場で繰り広げ,時間稼ぎをするしかなかったのです。こういう舞台裏が透けて見えるのもアルバトロスならではの醍醐味です。

 なかなかハンターの話を信じてくれないホテルマン君に,俺の話の証拠を見せてやると,首を切り落とした体の中に手を突っ込み「蟲(の一部?)」を取り出すシーンがあります。それを上記の酒場の常連に「お前たちはこれを見てもまだ信じないのか?」と突き付け,それを見た常連客たちが「これを見たら信じざるを得ない」とか言うんですが,なぜか観客にだけはそれを見せてくれません。観客に見せてくれるのは,「何かが入っているビニール袋」だけです。どうやら,クローズアップに耐える模型を作れなかった模様です。死んでも正体を見せてやるもんか,という意地すら感じさせます。


 というわけで,「B級スプラッター・ホラー映画道」を極めようとしている人にはお勧めの映画です。

(2006/05/02)

 

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