その素晴らしさに圧倒されるフラメンコ映画だ。見終わったあと,しばし感動に酔いしれた。これはスペインのアンダルシアを舞台とした,あるロマ(ジプシー)の一家族の絆と愛と誇り,そして悲劇を描いた作品だ。
この映画では現代のフラメンコ界最高の踊り手と演奏家を一堂に会しているとのことだが,私は残念ながらこちら方面の知識はないが(かろうじて名前を知っているのはギタリストのトマティートくらい),彼らの演奏と踊りの凄さは冒頭の数分を見ただけでわかった。ギターとジプシーバイオリンの掛け合いから始まり,手拍子が入り,アラブ系(?)の歌とバイオリンが入り,そこに踊りが加わり,やがて建物を揺るがすようなリズムの饗宴が7分以上続くのだ。大地に根をおろした音楽の強さがここにある。演奏が上手いとか,踊りが上手いとか,そういう次元ではない。悲しみとか喜びとか,怒りとか絶望とか,あらゆる人間の感情を飲み込み,それを舞踏に昇華させた凄みがある。
音楽のシーンは何度も繰り返されるが(・・・というか,音楽がメインでストーリーは従という感じだ),ギター演奏は荒々しいし,歌声も美声ではない。むしろ悪声である。しかし,そこらにいる普通のおばさんが,はらわたを絞り出すように,空間にたたきつけるように刻む歌声は限りなく深く,強靱だ。生きることは歌うこと,歌うことは生きること,という生の切なさが切々と迫ってきて圧倒される。何世紀にも渡って迫害され,流浪の生活をしてきたロマが最後まで捨てなかったのが歌と踊りだ,これが我らのアイデンティティであり誇りだという叫びが聞こえてくる。本物の持つ凄みというのはつまり,こういうことなのだろう。
映画のストーリーそのものは単純だ。年頃の娘ペパを亡くしたばかりの渋い中年男性カコ。その娘を慕っていた甥(兄の息子)のディエゴ。しかもディエゴは脳性麻痺(映像から診断)だが,カコは彼を実の息子のように愛している。カコは悲しみを紛らわすために,盛大なフラメンコパーティーを開いては酒に溺れている。ディエゴは不自由な体ながらフラメンコを踊り,その様子をまわりの人たちは温かく見守り,一緒に踊る。その踊りからは,ペパにもう会えないという悲しみが伝わってくる。
だが,カコの兄(ディエゴの父)は何かのトラブルから,カラバカ家の人間を殺してしまったらしい。カラバカ家から命をねらわれた彼は海外に逃げている。そこでカラバカ家は父の代わりに息子であるディエゴの血で贖わなければ,カラバカ家の名誉は回復しないと考えて,ディエゴの命をねらっている。
必死になってカラバカ家との和解の道を探すカコだが,カラバカ家の怒りはおさまらない。誰かが犠牲にならなければディエゴの命は救えないと悟ったカコは,愛するディエゴのために,死を覚悟してカラバカ家の葬儀の場に一人で向かう。
これは,哀しいまでに不器用で,しかも誇り高い男たちと女たちの物語だ。音楽好きの人には一押しのDVDである。
(2006/04/12)
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