《クラッシュランディング》(2002年,ドイツ)


 一言で言えば,「航空機パニック+サバイバル」映画です。暇つぶし映画としては十分に面白いですが,作り手が「美しい画像にしたい」という意識を優先させすぎているようで,映画の流れがちょっとギクシャクしている感じです。

 どういう映画かというと,「ケープタウンからカイロに向かう飛行機が整備不良のために飛行中に火を噴き,何とか不時着させたものの,そこはスーダン内戦に置き土産,地雷原のまっただ中だった。おまけに飛行機は正規ルートから800キロも離れていた。果たして彼らは助かるのだろうか?」という映画です。ちなみに,墜落シーンはかなりリアルなので,飛行機の機内では見ない方がいいですね。心臓に悪いです。私は迂闊にも(?),飛行機(それもトラブル続きのJALだったりする)の中で見て,「この機だけはエンジンから火を噴かないように」とお祈りする羽目となりました。


 見ていて気になるのは,やたらと静止画像になったり,スローモーションになったりして,それが気になり始めると,非常に鬱陶しくなります。おまけに,その静止画像とかスローモーションの部分が,ストーリー的に重要と言うわけではなく,「単に画像として綺麗な部分をスローモーションにしてみました」的な感じなんですね。ドキュメンタリータッチ,ってやつかもしれないけど,映画監督の陶酔ポーズが見えてきて,ちょっとうんざりします。見ている方としては,画面がスローモーションになると「ここは何かあるかな?」と思うし,ストップモーションになりある人物の顔がクローズアップされると「これは重要人物なんだな」と考えるのですから,ストーリー展開に全く関係ない人物はクローズアップしないで欲しいものです。

 それ以外にも気になったシーンが幾つか。

 まず,最初の飛行機が飛び立つところで,主人公のエンジニア(実は高所恐怖症)が座席の前の何か小さな部品がはずれ,それを直そうとするシーンが数度繰り返されるんだけど,あれは何だったんでしょうか。私は数回このシーンを見直しましたが,あれが何だったのかいまだに不明です。


 映画を見ている限り,乗客が助け出されるのは4日目の晩のはずです。その間,食料はないし,飲み水は地面を掘って3日目(?)に出てきた水だけです。その泥混じりの水を10人ほどで飲むわけですから,量的に足りているとは思えません。当然,脱水にはなるだろうし,空腹状態のはずです。ところがこの生き残った10人は,最後の最後までかなり元気ですし,活発に動いています。食料はともかく,飲み水なしで砂漠のど真ん中で4日間元気に動けるわけがないんだけど・・・。このあたりはかなり不自然でした。

 ちなみにこの飲み水は,飛行機でたまたま護送されていた殺人犯が,「あそこに木が見えるだろう? ああいう木の近くには必ず水がある」と教えてくれたから得られたものです。この殺人犯(実は,家族を殺された復讐で殺人を犯したもので,実はすごくいい人です)はその後も,地雷を踏んで動けなくなった黒人少女(5歳くらいで,両親を内戦で失っている)を助けたり,その少女を慰めるためにあり合わせのもので人形を作ったり,放置された古いトラックを動けるようにしたりと,大活躍します。というか,この人がいなければ,恐らく10人は全滅だったはずです。最終的に事故機に乗り合わせた人たちは助かりますが,それは,たまたまこの飛行機で殺人犯が護送されていたからだということになります。というわけで,ケープタウンで飛行機に乗る際は殺人犯が護送されている飛行機を選んだ方がいいでしょう。


 でその後も,仲間割れがあったり,意味不明のエピソードがあったり,殺人事件があったり,心温まるシーンがあったりとてんこ盛りですが,最終的には,乗客の一人が積み込んだハンググライダーが無傷で残っていて(他の貨物は大丈夫じゃなかったみたいなんだけど・・・),そのグライダーを,殺人犯が修理して動けるようにしたトラックで引っ張り,そのグライダーに主人公の高所恐怖症のエンジニアが乗り込み,地雷原を飛び越えて気象観測所に到達し,そこで救助の連絡をし,救助のヘリコプターが来るところで,めでたし,めでたし。ハンググライダーが空を飛ぶシーンは本当に美しいです。

 最後は殺人犯が砂漠の中を浩然として歩むシーンで終わります。絶望的なまでに広大な砂漠を一人で歩む彼の姿を見ていると,彼だけは無事に生き延びて欲しいと胸が苦しくなります。

 そういうラストシーンで一つだけ腑に落ちないのが,飛行機の乗客である眼科医の死です。彼は,「さぁ,これからグライダーをトラックで引っ張ろう」とみんなが沸き立っている最中に,そこからそっと抜け出し,地雷原に歩き出します。そして地雷を踏み(一旦踏んで足を離すと爆発するタイプの対人地雷のようです),最後のウィスキーのミニボトルを飲み干し,泰然として足を浮かし爆死します。彼の死を象徴する「スローモーションで吹き飛ぶ眼鏡」が,哀しくも美しいです。

 しかし,その映像美から我に返ると,「何でこの眼科の先生は死を選んだのか」が意味不明であることに気がつきます。DVDを何度見直しても,彼が死ななければいけない理由はありませんし,ここで死ぬ必然性もありません。彼はこの映画では「性格良い善人」グループの人間ですから,基本的には助かってしかるべき人物ですし,助かって欲しい登場人物です。なぜ,映画監督は彼を殺したんでしょうか? もしかしたら,「死を象徴するアイテムとしての吹き飛ぶ眼鏡」の画像が撮りたくて,この医者を殺したんじゃないでしょうか。そういえば,墜落事故で生き残った人間の中で,眼鏡をかけていたのは彼だけだったようだし・・・。


 基本的には悪い映画じゃないし映像は綺麗だし,暇つぶし以上の価値はあると思います。ただ,細部にこだわりすぎているし,最後まで見ても意味が通りにくいシーンがあるし,そういう点での詰めが甘い感じかな,と思いました。

(2006/03/28)

 

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