えじき Dead Bird (2003年, アメリカ)


 どんな映画かというと,銀行強盗一味(男が4人くらいと女が1人だったかな?)が一夜の宿にした一軒家が亡霊と気色の悪い生き物が棲む恐怖の館だった,という映画です。舞台は南北戦争当時のアメリカと,この手の映画にしてはちょっと珍しい時代設定でしょうか。

 まず,けなす前に一応褒めるところは褒めておきましょう。

 冒頭の銀行強盗のシーンはかなりきちんと作ってあります。でも,「こういうところに手を抜かないのは面白い映画の条件なんだよね」とは思わないほうがいいです。よくできているのはこのあたりからちょっと先までですから。この後は褒めるところがありません。


 では,ストーリーを追っていきましょう。

 幽霊屋敷のまえの荒れ果てたトウモロコシ畑を一味が進んでいると,いきなり得体の知れない生物が飛び出します。これはちょっとグロくてギョッとします。全身の生皮を剥がされた何かの動物(それが何かは,映画の一番最後で種明かしされます)なんですが,全身の表面がつるつる,ヌメヌメしていて気色悪いです。目玉もなく眼窩は直径4センチくらいの洞穴みたいになっていて,あとは鼻の穴,そして大きく開けられた口です。口の中にはなぜか,櫛みたいな歯が生えています。この歯がちょっと意味不明。でもこの気色悪いやつはピストル一発で簡単に死んじゃいます。見かけと違って弱いです。スライムみたいなもんです。

 しかし,さすがは強盗一味,この気色の悪い生物を見ても「山猫かなんかじゃないか」とか言って,どんどん先を進みます。どう見ても普通の生き物じゃないんですけど・・・。誰か一人くらい,「これは普通じゃないぞ?」とか,「全身の皮が剥がされている。気をつけたほうがいい」くらいのことを言って欲しいのですが,南北戦争当時のアメリカ人の知的レベルには,ちょっと無理な注文だったようです。


 そこで屋敷に到着。早速,屋敷内を捜索するんですが,薄気味悪くて,何かいそうな雰囲気はあるんだけどとりあえず何もいないようなんで,外も暗くなってきたしというわけで,ポーカーとか酒を飲むとかするわけですよ。カップルの二人は二階に上がってベッドインしたりするわけですよ。物の怪の気配すら気にしないでベッドに入るこの二人,恐らく発情期だったものと思われます。

 普通ならここで,化け物やら亡霊やらが出てきて,一人,また一人とやられるのがお決まりコースです。映画の画面もやたらと薄暗くて,その分「何か出そう」な感じなんですが,これが出そうで出てこない。見ている方が「何が何でも,そろそろ何か出てよ」と準備万端整えて待っているのに,まだ出ない。結局,亡霊君が登場するのは始まってから50分くらいたってからじゃなかったでしょうか。

 そこまで延々と,ランプを持っては屋敷内を動き回ったり,いなくなった仲間を探すシーンがあったり,そういうのを気にしないベッドの二人が出会った頃の回想話にふけったりと,ある意味,なくていいシーンが続きます。


 で,途中でこの屋敷の秘密がわかります。妻を亡くした屋敷の主人が,妻を蘇らせようとして「死者を蘇らせる儀式」をしていたんですね。その際,使用人やら召使いやらを捕まえては生きながら皮をはがしたりしては悪魔(?)に捧げていたわけです。そこで,屋敷の中に亡霊君たちがたむろしていたわけです。

 で,強盗一味は一人ずつ井戸に引きずり込まれたり,銃で撃たれた傷が変に悪化したり,仲間割れを起こして逃げる途中に化け物に出会ったりと数が減り,最後にカップルだけが残ります。そして全滅!

 何というか,全てに中途半端な感じでした。スプラッターホラーというほどのおぞましさはないし,ホラーというほど怖くないし,サイコスリラーというほど登場人物たちが精神的に追い詰められるわけでもありません。亡霊が一杯という設定のはずなのに,そんなに出てくるわけでもないし,うずくまっている少女(もちろん亡霊)が振り向いた顔も最初に登場する「全身皮剥がれ生物」の顔と基本は同じなんで,「あっ,出たな」くらいの感じで耐性ができていて怖くありません。「だからどうした」という感が否めません。

 せっかく設定として面白い映画なんだから,もうちょっと謎解きの要素を加えるとか,トリックを入れるとか,ホラーとして(あるいはスプラッターとして)徹底した画像にするとか,もっと工夫してよかったと思いますよ。


 それと,画像がやたらと暗いです。もちろん19世紀中ごろで電気はないからランプのみという設定だし,時間は真夜中だし,しかも外は土砂降りの雨。暗いわけです。唯一,稲妻がピカッと来たときだけ,部屋の中が明るくなるくらいです。こういう設定だからこそ,「出るぞ,出るぞ,今度こそ出るぞ」という思わせぶりのシーンの連続にしちゃえたんでしょうが・・・。

 それと,原題は "Dead Bird" ですが,これって特別な意味のある熟語でしたっけ? ちなみにこの映画には,死んだ鳥も生きている鳥も登場しません。


 この映画を見て思ったんだけど,電気がない時代の家の中って,きっとこんな感じだったんでしょうね。家の中とはいえ,夜になると光源はランプと暖炉くらいしかないでしょうから,ランプで照らされたところだけがボーっと明るいだけで,その向こうは闇同然。そういうところに胸像とか肖像画とかを飾ってあるんだろうから,日中いくら見慣れていたとしても,やはり薄気味悪いものはあったんじゃないでしょうか。まして,明かりがほとんどない廊下となると,物の怪とか座敷わらしとか,そういう怪しげな気配は常に漂っていたんじゃないでしょうか。

 悪魔とか妖怪とか怨霊とか祟りとか,昔の人はかなり本気で信じていた(源氏物語にはマジで祟られている様子が描かれてますよね)と思われますが,これは当時の人が幼稚だったのでなく,夜ともなると真っ暗闇の世界で,何がいてもおかしくないように思われたからじゃないでしょうか。

 そういえば,私が小さかった頃,夜の学校に行ったことがありますが,あれはマジで怖かったです。非常灯がところどころに光っているだけで,あとは懐中電灯だけしかありません。懐中電灯で照らされた部分以外はほとんど闇。トイレ(というより,便所だな)の中なんて「花子さん」だらけで怖くては入れなかったです。

(2006/03/13)

 

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