今回はアカデミー賞4部門に輝く正統派ボクシング映画の『ミリオンダラー・ベイビー』。女性ボクサーを主人公としたスポーツ映画である。こんなコーナーで取り上げていいんだろうか,というくらいの名作とされている。だが,前半と後半が全く違いすぎている。結末を知らずにこの映画を痛快なボクシング映画を思って見始めると,とんでもないしっぺ返しを食らっちゃうぞ。
31歳のボクシング経験のない女性が突如ボクシングに目覚め,「ボクシングを教えて」と年老いたトレーナーに頼み込みことから映画は始まる。初めは厭がっていたトレーナー(彼女の年齢も考えたら当たり前だろう)も彼女の真剣さに根負けし,彼女にボクシングを教え始める。ここらはスポ根映画の定番中の定番の始まり方である。スポ根映画の定石をふまえ,彼女の中に眠っていた才能が目覚め,彼女はボクサーとしてデビューする。
トレーナーの効果的な指導により彼女は連勝街道をひた走るようになり,ついに世界チャンピオンに手が届くところまで上り詰める。ここまでは見ていて楽しく爽快だ。『がんばれベアーズ』や『メジャーリーグ』,『ドッジボール』などのスポーツ映画同様,努力の末に夢を掴もう,というアメリカン・ドリームの世界そのものが描かれている。
普通ならここで敵役になる選手が登場して,こいつの試合で負けて一度は挫折するんだけど,その後また復活し,ついにはチャンピオンの栄冠を手にする・・・なんていう筋書きになるのが一般的だし,映画を見る方もそれを期待してお金を払って映画館に入るはずだ。
ところがそれが違うのだ。ダーティーな反則を繰り返す相手との試合中,事故で彼女は重傷を負ってしまうのだ。
さて,これからあなたならどういうストーリーを考えるだろうか。ケガから奇跡的に復活し,その敵役を倒し,そして世界チャンピオンになる,というハッピーエンドにするか,あるいは,ケガのために引退を余儀なくされたけれど,才能ある少女を見いだして今度は自分が指導する側に回り,彼女をチャンピオンにする,というストーリーも考えられる。どちらも見終わった後にカタルシスが得られるて,客も満足して帰途につくはずだ。
ところがこの『ミリオンダラー・ベイビー』はここから一挙に暗転・失速するのである。どういう最後になるかは明かさないのが礼儀だろうから書かないでおくが,とにかく暗く沈鬱なまま終わってしまうのだ。途中で彼女のケガの状態が明かされる時点で医者なら誰でも,「こりゃ,助からないな」と判っちゃうわけなんだけど,「オイオイ,このまま終わっちゃうの?」という感じです。いずれにしても,この最後には普通の映画ファンは引いちゃうだろうな。
とにかく,この映画は最初の1時間と,その後の1時間では全く調子が異なっています。前半は軽快・痛快なスポーツ映画,後半は沈鬱・真面目な社会派映画です。スポ根映画特有のカタルシスを得ようと思ってこの映画を見たら,絶対に失望します。映画としてはとても誠実に作ってあるし,嘘偽りのない話なんだろうけど,あまりにクソ真面目に作ってしまい,前半と後半が全く異なったものになってしまったようです。そのギャップがあまりに大きすぎます。
そういえば,老トレーナーと彼の娘との確執が終始語られていたけど,その原因については最後まで明かされなかったな。これも見終わった後,すごく気になってしまった。
そうそう,クリント・イーストウッドとモーガン・フリーマンの二人の年寄り,渋くて格好いいです。チョイ悪オヤジにはならなくてもいいけど,こういう爺様になってみたいものです。
(2006/01/17)
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