新幹線のゴミ箱


 新幹線に乗ったことがある人がわかると思うが,現在,車内のゴミ箱は全く使えない状態が続いている。東海道新幹線も東北新幹線も新潟新幹線・・・とあるが,ゴミ箱が使えないことでは同様である。日本全国,どの新幹線に乗ってもゴミ箱はガムテープで封印されている。
 もちろん,例のアメリカでの同時多発テロ以来であるが,この「ゴミ箱封印」状態をいつまで続けるのだろうか。いつになったら使えるようになるのだろうか。

 何事もそうだと思うが,物事というのは始める時より,止める時の方が難しい。始める時はその時の勢いとか,一時の思い付きで始められるが,止める判断を下すのはきわめて難しい。止めて何かが起きたら困る,責任をとらされてはかなわないと思えば,とりあえずは自分の任期中には判断を先延ばしするのが世の常である。新幹線のゴミ箱のように,使えなくすることでどれほど安全性が向上したかがわからないものであっても,とりあえずはそれを続けるのが保身術というものである。


 考えてみれば,新幹線のみ使えなくしているが,特急列車のゴミ箱は従来どおりだし,新幹線とその他の電車を分けているのがよくわからない。テロ行為が新幹線だけに行われるわけではないからだ。
 あるいは,秋田新幹線や山形新幹線などの「ミニ規格新幹線」は在来線の線路を特急電車と同じスピードで走っているわけで(何しろこれらは単線を走っているんだぜ),そういう新幹線と他の在来線の特急電車を区別している理由もよくわからない。


 果たして,新幹線の中でお弁当を食べたあとのゴミをゴミ箱に捨てられる日は来るのだろうか。フセイン政権が倒されたあと,何を指標にしてゴミ箱を使えるようにするのだろうか。

 イラクで選挙が行われたらゴミ箱が使えるようになるのだろうか。アルカイーダが全滅したらゴミ箱を使わせてもらえるのだろうか。イスラム教徒が地球からいなくなったらゴミ箱のガムテープが剥がされるのだろうか。ブッシュ政権が倒れたらお弁当のゴミを持ってウロウロしなくてすむようになるのだろうか。小泉政権が倒れたらビールの空き缶を捨てられるようになるのだろうか。それとも,今後開発される新幹線新型車量は最初からゴミ箱を設置しない設計にするのだろうか。


 止め時が難しいのは,新幹線のゴミ箱だけではない。自衛隊の海外派兵も,イラク戦争後のアメリカの占領もそうだろう。
 アメリカは「フセインなんてすぐに倒せる」と考えて戦争を始め,事実,イラク軍はすぐに崩壊し,フセインは捕らえられたが,その後,状況はますます泥沼化している。いまさらアメリカ軍を撤退させるわけには行かないし,かといって派兵を続ければ続けるほど,財政支出は巨額になる。こんなことなら,戦争なんか始めなければよかった,なんてみんなが思っていても,もう後の祭り。

 太平洋戦争の日本軍を見てもわかるが,戦争は止め時というか引き際の判断が一番難しい。止め時の判断がつかなくて(というか,日本軍は最初から戦争の目的が曖昧だった),ずるずると戦争が続き,やがて破局に向かうというパターンが少なくないのである。どうせ戦争を始めるのなら,最初から「こういう成果が得られたらこの戦争は終わりにしよう」と始めるべきである。

(2004/12/16)

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