デジタルデータは長期保存に向くと考えられているが,実は間違っているのではないだろうか。実は,アナログデータほど長期保存ができる可能性が高いのである。
記録された情報は二つに分けられる。特別な装置なしに情報がわかるものと(書かれた絵画,本になった小説,印画紙に焼かれた写真など),特別な装置がなければ情報が取りだせないものである。これがデジタルデータである。
例えば絵画をJPEGデータに変換し,CD-Rに記録したとしよう。絵画の場合はは見るだけでどんな絵かわかるが,後者の場合,CDドライブがあってそれを画面に表示して初めて,どんな絵なのかがわかる。本は開けば読めるが,それをPDFファイルにしてハードディスクに保存してあったら,ハードディスクをいくら睨んでも本の内容はわからない。
そんなの当たり前,と思ってはいけない。ここに「データが長期保存できるかどうか」が絡んでくるのだ。
例えば,3000年前のエジプトで書かれたロゼッタ・ストーンの文字は,今でも見ることができるし,エジプトのパピルスもそうだ。ラスコー壁画も今でも普通に見ることができる。これがアナログデータの強みだ。
しかし,15年前に超売れ筋だったワープロ専用機(ワープロ専用機自体を知らない世代が多くなっているんだろうな)で作り,フロッピーに保存した文章データは読めるだろうか。多分無理である。ワープロ専用機自体が絶滅しているからだ。それでは,10年前にパソコンで作成して5インチフロッピーに記録したデータベースが読めるか,というと,これも不可能だ。5インチフロッピードライブそのものの入手がほぼ不可能だからだ。3.5インチフロッピーだって,次第に読めなくなっている。フロッピーディスクドライブ(FDD)のないノートパソコンの方が圧倒的に多いし,デスクトップ型パソコンからFDDがなくなるのも時間の問題だろう。
例えばちょっと前まではLP(その前はSPレコード)というのがあったが,今では完全にCDに置き換わっている。手軽さ,メディアサイズなどはCDの圧勝である。しかし,メディアから簡単に音が取りだせるかどうかを考えると,これはLP,SPの圧勝だ。なにしろレコードの溝を爪楊枝でこすっただけで音は出る(いい音かどうかは別にして・・・)。しかしCDから音情報を取りだすのはCDプレーヤーがなければなければいけない。100年後,LPとCDが同時に見つかった時,音情報が取りだせるのはLPの方であり,CDではない。CDはCDの仕様書とプレーヤーの設計図がなければ,音情報が入っているのか,文字情報が記録されているのかすらわからないはずだ。
今,幼稚園や小学校の学芸会,運動会ではビデオで撮影する親だらけである。カメラしか持っていない親はほとんどいない。当然,家の本棚にはビデオテープが並ぶか,ハードディスクにファイル保存される事になる。
問題はテープである。あと10年もすれば,間違いなくテープは読めなくなるはずだ。その頃になると,ビデオテープの再生装置が市場から消えているからだ。つまり,再生装置の市場価値が亡くなった時,ビデオテープは情報を記録している物からゴミに変化する。映像ファイルとしてハードディスクやDVD-Rに保存してある場合も10年後は多分大丈夫だろうが,20年後となるとどうだろうか。
オープンリール式テープが聞けなくなり,フロッピーに保存しておいたデータ見られなくなるのと同様,CDもDVDにもいつかは「読めなくなる」日がやってくる。
要するに,子供が成人した時,ビデオ(8ミリビデオであろうとデジタルビデオであろうと)に録画したはずの子供の映像は見られないだろう。要するに,データを閲覧するために専用の機器が必要なものは,数10年後には見られなくなる。もしもそれを次の世代でも読めるようにしたいのだったら,読み込み用デバイスが市場に出回っているうちに,次世代の次世代の標準メディア(と思われるもの)に標準フォーマット(と思われるもの)で書き換えておく必要がある。
この点,写真にしてしまえば,おそらく100年後でも大丈夫だろう(色は褪せるだろうが)。実際,私たちは今でも150年前のショパンの顔を写真で見ることができるのだ。
要するに,長期保存するならアナログデータ,あるいは閲覧用の機材を必要としないデータだと思う。少なくとも,子供の様子はビデオだけでなく写真で残しておくべきだと思う。
(2004/02/24)
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