2004年の正月に読んだ本
『世界を制した中小企業』(黒崎 誠,講談社現代新書)
- 自前で人工衛星を打ち上げちゃおうか,というほどの技術力を持っているのが日本の「物作り」の現場であり,それを支えているのが中小企業だ。これは,世界の大企業を向こうにまわし,独自の技術と想像力を武器に,世界のシェアの80%を独占している,知られることのない日本の中小企業を紹介している本である。
- 「プロジェクトX」のネタになりそうな話が満載! 読むと元気が湧いてくるぞ。
『ものがたり 日本の航空技術』(杉浦一機,平凡社新書)
- これも基本的に,前述の『中小企業』と同系列の本かな?
日本は第二次大戦中,当時の最先端の機能を持った戦闘機(「ゼロ戦」「紫電改」「隼」など)を作り,独自にジェットエンジンまで完成させていたのに,敗戦で飛行機開発の道が絶たれてしまった。
終戦後,失意のどん底にあったこれらの戦闘機の設計者が,「日本初の国産旅客機開発」のために呼び寄せられる。人呼んで「5人のサムライ」! 苦闘の末に完成し,離陸したのがあの名機『YS-11』だった。しかしその後,YS-11を継ぐ国産旅客機が作られることはなかったが,その原因を明らかにするのが本書である。
- ボーイングとエアバスの競争,最近地方空港で飛んでいる小型ジェット機のことまでよくわかるようになる本である。
『インド怪人紀行』(ゲッツ板谷,角川文庫)
- 元「暴走族のヘッド」が書いたインド旅行記。これまで「タイ怪人紀行」「ベトナム怪人紀行」などの旅行記を書いている。本の中に西原理恵子の漫画があることでわかるとおり,サイバラのパシリみたいなものらしい。
ちなみに,これらの「紀行」で写真を撮っている鴨志田穣はサイバラの旦那様であるが,最近,離婚されちゃったらしい。
ま,そんなことはどうでもいいが,この「インド紀行」は読み物としてはかなりヘビーだし,よく書けていると思う。
『数学を作った人びと Ⅲ』(E.T.ベル,ハヤカワ文庫)
- 「元・数学小僧」の心を熱くしてくれる名著の3冊目。ここで取り上げられているのは19世紀後半から20世紀前半の数学者達であり,ワイエルシュトラス、コワレフスカヤ,ブール,エルミート,クロネッカー,リーマン,クンマー,デーデキント,ポアンカレ,カントールという錚々たる面々が登場する。
「リーマン予想」(あるいは「リーマンのζ関数」の零点問題)をここまでわかりやすく解説する文章に出会えるとは思わなかった。
それにしても美しいのは,次の式である。
eiπ+1=0 (ただし,iは-1の平方根)
自然対数の底,円周率,虚数の基本単位,数の基本である1と0,それしか含んでいない数式である。これが成立するのだ。これは神のごとく美しいと思うがどうだろうか。
- ついでにもう一つの数式。これを証明したのがエルミートである。
e=1 + 1/1! + 1/2! + 1/3! + 1/4! + 1/5! + 1/6! +・・・・・
分母の「階乗」の数字が多くなればなるほど,この数式の値は自然対数の底に近づくのである。ここにも神がいる。
『名将たちの戦争学』(松村 劭,文春文庫)
- 私は戦争は大嫌いだ。戦争は人類最大の愚行だと思っている。そして,だからこそ,戦争について知らなければいけないと思っている。
病気になりたくなければ病気について知識を得るしかない。同様に,戦争を拒否するのであれば,戦争そのものを知らなければいけないと思う。それが「戦争学」である。
- 「戦争学」は実は「治療学」に通じている。戦闘の論理は治療現場の論理に通じているのである。これは「戦争の目的」が何か,「治療の目的」は何かを考えれば,当然の帰結である。
- いずれ,場を改めてこの本については書こうと思っている。書くべき価値がある本だとおもう。
(2004/01/05)