HIROHITO AND THE MAKING OF MODERN JAPAN
 昭和天皇と言えば,「平和主義者だったけれど,軍部に利用された不幸な天皇」,あるいは「ハゼやヒドラなどの研究をし,学会でも認められている学者天皇」という印象がある
 しかし,「噂の真相 八月号」に,ピュリッツァー賞を受賞した一冊の書物,"HIROHITO AND THE MAKING OF MODERN JAPAN" 『ヒロヒトと近代日本の形成』(H. P. BIX 著) が取り上げられていた。翻訳作業が進んでいるらしいが,国内で出版されるかどうかはかなり微妙らしい。何しろ,冒頭5ページ目にして「ただ自分の地位を守ることに汲々とし,他人の犠牲を省みず,近代君主の座を占めたかつてない不誠実な人物」として断罪されているのだ。恐らく100%,国内出版は無理だろう。

 著者はジャーナリストではなく,一介の学者らしい。彼は新たに取材するのでなく,膨大な日本語文献を読みほぐし,再構築してこの膨大(700ページ)な書籍を完成させたという,いかにも学者らしい(そして学者にしか出来ない)手法で本をまとめたらしい。つまり,一般に市販され,一般人が入手することができる資料をまとめることで,従来から言われてきた「軍部に利用された不幸な天皇であり,本当は平和主義者」が虚像ではないかという結論を導き出している。
 たとえば,日本軍は中国本土で化学兵器を使用するという蛮行(何しろ当時でも国際法で化学兵器は使用が禁止されていた)を犯すが,ヒロヒトは最初からそれを知っていたし,日中戦争の間,化学兵器は天皇と大本営が直接管理し,使用には天皇の許可が必要であったというのだ。
 また,広島原爆投下からポツダム宣言受諾までの間,「ヒロヒトはまったく無為無策であり,彼の興味の中心は『三種の神器』を如何にして守るかだった」と言うあたりになると,もう情けなくて涙も出ない。原爆により国民が大量無差別に虐殺されたと言うのに,「草薙の剣」やら「鏡」などの役立たずのガラクタ(私はそう思う。せいぜい,古民具程度の価値しかないと思うぞ)を守ることしか考えていなかったとすれば,「陛下のために」死んでいった兵士たち(しかもそれには,無理やり日本人にさせられた朝鮮人,中国人たちが含まれているのだ)は,死んでも死にきれないだろうし,彼らの死,そして広島・長崎の犠牲者を思うと,あまりに身勝手なものではなかったのか?

 結局,靖国神社への参拝問題にしても,「創る会」の教科書問題にしても,その根本は,最高責任者であったはずのヒロヒト自身が自分の戦争に対する責任をうやむやにしたことに端を発する。ここらへんの事実関係をうやむやにしているため,あの戦争は間違っていなかったとか,アジアを開放するためにやむを得ず起こした戦争だったとか,劣っている国を占領するのはその国のためなのだとか,そういう議論がまかり通っているのではないか。

 この書籍の内容が正しいかどうかは,Bix氏が参考にしたと言う膨大な資料を再度読み返し,再構築する作業が必要となるはずだ。そして,その内容に反論するのであれば,感情的な反発や「天皇陛下の神聖犯さざるべき存在なので,その責任を問うことは間違っている」,というような最初から議論を認めない(=放棄する)ような立場に立つ事は,許されないだろうと思う。

 黙殺されるには,あまりにも重いテーマをもった本だと思う。

(2001/07/16)

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